日々雑録
仏像修理のハ・ナ・シ36『後世の修理の悪例』
小さな台座と光背をお預かりしています。
立像4寸用です。
まずは、台座から。
最低1回の修理の手が入っているのがわかります。
蓮弁が前回の修理時に、彩色を落とさずに新たに彩色が施されています。
上層の彩色が剥落し、下層の緑色が露わになっています。
漆箔部分の彫刻も塗り膨れています・・。
・・・で光背はというと、
雲の渦の彫刻、きれいに彫れています。
これも塗り膨れてはいますが、彫りが深いので塗り膨れても、
なかなかカッコいい☆
・・・でも、
なにやら様子がおかしい・・。
(それは後ほどご説明)
修理内容は復元修理となりますので、
まずは漆箔・下地の除去から始めます。
こちらは、台座の蕊(しべ)の部分。
赤矢印・・・前回の修理時の漆箔の層
青矢印・・・制作当初の漆箔の層
赤矢印の層がめくれて、青矢印の層が出てきたわけです。
写真の左側にめくれた層も写ってますが、
この分が塗り膨れてるわけです。
あと光背ですが、コチラはわかりやすい☆
下側と上側に黒い層(オレンジ矢印)が残っていますが、
コチラは前回修理時の漆の層(黒の箔下漆)。
全体にある赤い層(赤矢印)ですが、
コチラは制作当初の漆の層です(ウルミの箔下漆)。
朱やウルミの色漆の箔下漆を塗ってから
金箔を押すと、金箔の色が赤みを増すことから、
意図的にウルミ漆が塗られているんですね。
・・・で漆箔、下地を除去した写真がコチラ。
使用していた材といい、
彫刻の内容といい、
色漆の件といい、
制作された方は、そこそこ拘っておられたことがわかります。
今回の修理では、
少々変わり種だったのが・・光背☆
冒頭にも何やらおかしいと書きましたが、
今回のこの光背、一木やったんです。
左側が今回の光背です。
通常なら右側のように、6つの木地を木寄せして光背を制作します。
下の写真は、舟形光背の制作過程です。
木寄せをして(左)、削って(中央)、(右)のように仕上げていきます。
今回の舟形光背に何か違和感を感じたのは、
木取りの段階で、舟形のアールがきれいに形成できてなかったのが原因かと。
でも、彫刻はすばらしいものでした☆
続いて、コチラは台座の据え座と呼ぶ部分で、
別彫りで本体に接着する彫りなんですが、
右側の2個がオリジナル(制作当初のもの)
左側の3個は後補(前回修理時に交換されたもの)
色が違うのは写真でもわかります。
オリジナル分は木地がとてもしっかりしていました。
花菱の彫刻が、後補分はオリジナル分を意識せずに彫刻していますね・・。
下地を除去せずに塗り替える“いかんせん”な修理内容に加え、
オリジナルと彫刻を合わせない点、
さらに!
台座のパーツをつなぐ心棒が、
丸穴なのに対して、適当な棒になっていたり、
中心がずれていたり・・・
挙句の果てには、最初は気付かなかったんですが、
台座の順番が間違っている・・・。
高欄(欄干)が浮いてますね。
いちばん幅のある框座(6番)が高欄の下に来るはず。
青字の順になるはずなんです。
せっかくの拘って制作された台座・光背なのに・・・。
後世の適当な修理は見てて悲しくなります。
「いかんせん♪ 嗚呼いかんせん♪ いかんせん♪」
“いかんせん”な修理を見たときは唄いましょう。