日々雑録
仏像修理の話77『唸る台座・復元修理④』
前回からの続き。
さて、いよいよオーラスです。
木地修理が完了すれば、その後、専門の職人の手に渡ります。
職人と言いましても、
この素晴らしい彫刻を生かすための専門性を持った職人です。
塗師(漆塗り)は、漆を塗るだけではなく、
漆を塗るまでの下地の工程も担当します。
膠を使用する昔ながらの下地を使用することで、
何十年、何百年先の修復においても、
今回のように木地の状態に戻すことが出来、復元することが可能です。
矧ぎ目に溝を彫ってコクソを充填したり、
また和紙を張るなどして補強したり、
下地を塗る前にも、別の作業もあります。
箔押師や彩色師の次工程のことも考えながら仕事をする必要もあり、
非常に重要なポストになります。
こちらが塗り上がりです。
1つ1つできるだけ細かく、分解した状態で塗り上げます。
接着したまま塗られているのを、他産地の仕事で目にすることがあります。
その場合、漆が隅まで塗られていなかったり、逆に漆が溜まっていたり、
また、部分的に金箔が押せてなかったり、、、
より良い仕上がりを求め、その形状を見ながら、創意工夫をしています。
漆が塗り上がれば、次に金箔押しの工程に移り、
それぞれに漆にて金箔押し(金箔を接着)。
また、金箔を押した一部に淡く彩色を施したり、
正面の二天には極彩色にて金箔とは対照的に仕上げ、
これらは彩色師の手に渡りました。
そして、最終の組立てになり、完成に至るわけです。
取付けが完了してしまえば、あまりわかりにくいことではありますが、
ここに至るまでにいろいろと試行錯誤もあり、
無事に修復が完了したときに、大きな安堵と達成感に浸るわけです。
それが経験となって今後の仕事にも生かされ、
私共にとって非常に有難い時間となります。
両手を新補取替えをした阿弥陀像を立たせるとこのような感じに。
さらにこの台座の下に別の台がありますので、
台座だけの総丈は1尺4寸(42㎝程)。
あと、細かいことですが、
台座の地擦りに刳りがあります。
この刳り部分に、手が込んでいる物には、金箔が押されていることが多く、
当方でもそれに倣い、
刳ってある部分に漆を塗って、金箔を押すようにしています。
その拘りに目を向けられることは殆どありませんが、
仕上がりを見れば、やはりやるべきだという結論に至ります。
結局は自己満足でしょうか。
そんな仕事へのこだわりを一つや二つ入れることは、
私共に仕事のご縁を頂いたことへの感謝の念と思っています。
余計なことはする必要はありませんが、
それだけ奥の深いお仕事です。手を抜くことは決してありません。
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