日々雑録

仏像修理の話86『天部像の現状維持修理』

2020/07/21(火) 仏像修理の話

 

弊社に珍しい仏さまがやってこられました。

さて、何という仏様でしょうか。

 

まずはアップの写真から。

 

天部ですね。女神に見えます。

吉祥天でしょうか・・。

 

 

鳥居の宝冠があらわれました。となると、

人頭蛇身の宇賀神は見当たりませんが、弁財天でしょうかね。。。

 

 

おおっ! 動物にまたがってます。

 

この動物は?!

なんかくわえてますね。。

 

 

ボールをくわえたワンちゃん、

 

ではないですね。

 

 

そう、この動物は狐(白狐)。

そして、宝珠をくわえているということになります。

 

 

仏さんで、狐にまたがっているとなると、

 

荼枳尼天(だきにてん)となります。

荼吉尼天と書く場合もあります。

 

仏教の神で夜叉(インドでは猛悪な鬼神)の一種とされてますが、

日本に伝来し、稲荷信仰と習合し、日本独特に変容していたようです。

稲荷権現とも同一視されます。

 

 

さて、その荼枳尼天さん。

なかなか珍しい仏さんです。

しかも今回は、眷属(けんぞく)がいます。

荼枳尼天三尊像とでもいうのでしょうか。

 

少し調べましたが、荼枳尼天で三尊は例がありません。

非常に珍しい仏さんで、非常にレベルの高いお仕事がされています。

 

さて、修理に話ですが、

150年から200年ほど前に作られたと思われる木仏ですが、

 

厨子内に納まっていたからか、細かな損傷はあるものの、

 

致命的な損傷はないので、

 

 

現状を維持し、損傷した部分や亡失した部分を補作し、

 

補作した部分を補色(人工的な古色)をし、

 

どこを修理したかをわからないように仕上げる ”現状維持修理” を

 

ご提案させて頂きました。

 

まずは、厨子内から仏像を取り外さないといけません。

 

これが結構大変な作業になります。

なんせ、とっても小さな仏さんで、

 

既に当時の接着は切れ、

 

後世に接着し直されていました。

 

 

無理に離そうとすると、

傷んでいない箇所も傷めてしまうことになりかねません。

 

地道に水分を与え、接着力を緩めて、という北風と太陽作戦です。

 

そして、無事に3躯を離すことが出来ました。

 

 

おみ拭いをした後に、

 

欠損個所を補足。遊離したところは接合。

 

亡失した持物は新補しました。

見比べて頂くほうが修理箇所がわかりやすいので、

修理前→木地修理後→古色彩色後 の順で以下掲載します。

 

 

◆正面

修理前



木地修理後

古色彩色後

 

◆斜め左から

修理前

木地修理後

古色彩色後

 

◆斜め右から

 

修理前

木地修理後

古色彩色後

 

この小ささで、この天衣はかなりのチャレンジャーですね。

この天衣の取り付けは仏師さんも苦労されました。

小さくても拳然り、宝剣も羯磨の然り、良い仕上がりになりました。

あと、宝剣の古色は結構満足しています。

 

あと両脇の童子?です。

 

修理前

木地修理後


古色彩色後

 

 

そして、最終、厨子内に固定です。

 

天衣と、錺の宝冠帯が干渉するので、宝冠帯は除きました。

 

しかし、とっても秀逸な仏さん。

部分的に残っている截金をみてもよくわかります。

このような仏さんの修理のご縁を頂けたことに感謝です。

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