日々雑録
仏具修理の話27『文字彫刻を生かす位牌修理』
こちら、札丈1尺5寸の大型位牌。
修復のご依頼でお預かりしました。
シンプルな形状。
古い位牌は、こういった簡素な位牌が多いです。
位牌は修理されずに、製作当時のまま残っていることが多く、
下地の剥落や虫食いの被害のあるものも少なくありません。
このような損傷は、木製の宿命で、仏具全般に言えることですので、
想定の範囲内です。
お位牌の修理で、重きを置くのが 札に彫刻された文字。
位牌札の彫字は、仏像でいう御尊顔。
如何にこの彫字の生かして修復するかが、お位牌の修復において最も重要だと考えています。
過去にも同様の案件がございました。
昔の位牌は、胡粉と膠による下地の上から漆が塗られていることが大半で、
修復する場合は、下地を除去するところから始めます。
こちらは、漆や下地を除去し、木地の状態に戻した状態。
干割れや、虫食い等が、確認できます。
虫食い部分は、木地を取り替え、札と台座のホゾの緩み等を調整。
札の彫字も下地を除去することで、より明確になりました。
木地修理が完了すれば、次は下地の工程に移ります。
先ほども触れましたが、
下地は胡粉と膠による下地を行います。
但し、下地の段階で既に、文字が埋まってしまいます。
字にも強弱がありますので、
彫りの浅い部分は字が埋まってしまいます。
写真で丸く囲った部分は、この後に漆を塗ってしまうと完全に埋まってしまうことになります。
もちろん、
修理する前に文字の型を取ったり、撮影をしたりして記録を残しますが、
彫字を埋まりきらない状態で字を出しておくことが、
既存の彫字を生かすことに繋がります。
彫字に埋まった胡粉地を除去して、既存文字を彫り出しました。
その後、漆を塗り上げました。
その後、蝋色と箔押しの工程を経て、完成となりました。
既存の彫刻文字を生かす位牌修理。
彫字も埋まった感もなく、より生き生きとした文字になりました。