日々雑録
仏像修理のハ・ナ・シ45『台座・光背(立像1尺4寸用)復元修理』(全1回)
台座・光背の復元修理をご拝命頂きました。
西山浄土宗寺院のご本尊・阿弥陀如来像の台座・光背です。
ご本尊のお身丈は1尺4寸。
台座・光背の内容は大変素晴らしく、作者の拘りがうかがえます。
今回はこの台座・光背の修復工程を2回にわけてご紹介します。
まず台座は、八角型。
彫刻のひとつひとつがかなり繊細に表現されています。
蓮華は、いわゆる踏み割り蓮華。
蓮弁(花弁)が付く蓮肉が、正面から見て中央部分が割れているのがわかります。
踏み割り蓮華は、1本の茎から2つの花をつける双頭蓮(そうとうれん)がモチーフ。
これがその双頭蓮。
イメージとしてはこちらの双頭蓮が近いかもしれません。
台座のこだわりもさることながら、
光背の彫刻も素晴らしく・・・
舟型光背、水煙透かし彫り。
そして、化仏が付いています。
小さな化仏ですが、輪光背もきっちり付いています。
この台座・光背をこれから修理するわけですが、
第1段階として、漆や下地を除去して木地の状態に戻します。
表面の構造として、簡単に言いますと、
木地 < 胡粉下地 < 漆 < 金箔
の層になっています。
修理においては、金箔・漆・胡粉下地の層を除去し、
木地の彫り上がりの状態に戻すわけです。
既存の状態から、新たな下地・漆を施すと彫刻が現状より塗り膨れ、
繊細な彫刻は“ぼってりした感じ”が生じます。
その塗り膨れが極力生じなくするために、下地を除去し、木地に戻します。
下地の除去は、ただただ丁寧に時間をかけて行います。
胡粉下地には膠が含まれ、木地の接合にも膠が使用されていますので、
水に浸ければ徐々に接着は緩んできます。
木地自体は傷めないように、漆や下地を除去。勿論手作業です。
下地除去に要した時間は約1ヶ月。
こちらは台座の洗浄解体後の写真です。
こちらは、光背です。
台座も光背も、いくつものパーツが接合されて形成されています。
解体が済めば、
損傷した部位を修理し、接合。
最も時間の掛かる木地修理の工程に移ります。
下地を除去し、解体をすれば、木地の損傷状態が露わになります。
ある程度はわかっていたことでしたが、損傷は著しく、
虫喰い被害(赤)、ネズミによる被害(青)をはじめ、
彫刻の欠損が数多く確認できました。
あと、損傷において特筆すべき点がひとつ。
それは“後世の修理による人為的被害”
被害というには少し語弊があるかもしれませんが、よくある事例です。
後世の修理とは、制作以後の修理のことですが、
きっちりと修理出来てないわけです。
今回確認できたのはこの踏み割りの葺蓮華。
1枚1枚葺いてある蓮弁(花弁)をご覧頂くとよくわかります。
蓮弁の雰囲気が違うのがわかります。
さらにその蓮弁には筋が描かれています。
この蓮弁は、明らかに別の台座のものが使用されています。
(厳密に言いますと、座像用の蓮弁です。)
いつしか、蓮弁の接着が緩み脱落し、その蓮弁自体が亡失。
後に、歯抜けになった蓮肉に、形状の違う蓮弁を取り付けられたのでしょう。
今回の修理では、
この蓮弁は使用せず、形状にあった蓮弁を新調しました。
あと、
このお台座には、
あらゆるところに墨書きが確認できました。
まずは、台座内部。
「寛文十一年 亥 七月七日」
とあります。
江戸年間1671年、今から340年前。
江戸幕府・第4代将軍 徳川家綱の時代。
「大仏師 康雲」
ともあります。
仏師・康雲さんのお話は以前にブログでもお話しました。
ブツネタ182「またお会いしましたね♪康雲さん♪」
康雲さんの銘が書かれた阿弥陀如来像は数多く見てきましたが、
台座に書かれてあるのを見るのは初めて。
墨書きは実はこれだけではなく・・
下地を除去し、木地の状態に戻すと
下敷茄子・受座(したしきなす・うけざ)部分の上下に
この墨書きが確認できました。
この華盤には、この後下地を施し漆を塗り金箔を押しますので、
この墨書きは、もう確認することは出来ません。
ご寺院さまにとっては貴重な資料となることでしょう。
さて、木地の修理及び接合の工程には、約1ヶ月半を費やしました。
そうそう、先程の墨書きのあったのは、この部分です。
木地の色が違うのがわかります。
損傷著しかった部位は木地を取り付け、同様の彫りを施します。
光背の彫刻はかなりの繊細さ。 接合部が僅かで苦労しました。
蓮弁は全部で53枚。
下地・漆塗り・金箔押しがきれいに仕上がるように、
蓮弁1枚1枚にダボを付けて、最終金箔を押してから蓮肉に固定させます。
木地修理が完了すれば、塗師の手に渡ります。
まずは、下地の工程。
下地を塗っては研ぐ工程を繰り返し、
漆を塗り上げます。
そして箔押師さんに渡り、金箔を押します。
また、台座に取り付けてあった錺(かざり)金具は、
↑修理前
↓修理後
修理し、メッキ替えを施し、
金箔が押された台座に、この金具を取り付け、
蓮弁を蓮肉に取り付け、台座を組み立てて完成。
上品な金箔の色艶。
非常にきれいに仕上がりました。
塗師さんも箔押師さんも、非常に繊細な彫刻で気を遣う仕事になりましたが、
難なく仕上げて下さりました。
最後に、
こちらは、この台座に立たれるご本尊・阿弥陀様。
ご本尊は手を入れませんでしたが、
左眉上部と右眉上部に虫喰いの穴が2つ確認できましたが、
補修しておきました。
西念寺様台座光背の復元修理記録は、以上になります。
ご拝命頂き有難うございました。