日々雑録

仏像修理の話92『大きく変貌した台座の修復』

2022/10/05(水) 仏像修理の話

 

 

今回は、台座と光背の修復をご紹介します。

 

お仕事のご縁は、1通のメールから。

能登半島の最先端に位置する石川県珠洲市からのお問い合わせでした。

 

 

こちらが能登より届いた台座と光背。

ファーストコンタクトは、見慣れない個性的な台座に見えました。

 

台座には規則性があって、こちらの台座も例外ではなく、

蓮台、敷茄子、華盤、据座、框 というパーツが規則性に倣って重ねられていましたが、

ある時期に、蓮台(葺蓮華)から下のパーツがあべこべになってしまい、

違和感のある台座になってしまったようです。

 

 

損傷としては、下地の剥落が目立ちます。

彫刻がされていない板のパーツが、顕著に剥落が確認できます。

これは1枚の無垢板が使われているのが原因で、

木が反ったり捻ったりすることで、下地に亀裂が生じ剥落に繋がったことがわかります。

 

また、材を見る限り杢目も細かくないので、余計に生じやすかったように思います。

 

 

奥行きが足らないパーツも確認できます。

 

作り慣れていない職人さんが作られたように垣間見れますが、

とはいえ、当時何かを見本として、一生懸命に作られたことも伝わります。

 

 

あと、こちらは台座後面の写真ですが、

 

蓮台の下に、酢酸ビニル系樹脂、いわゆる木工用ボンドを

接着兼クッション替わりに盛られていました。

 

この盛られた量には驚きましたが、

身丈1尺ほどある金属製の阿弥陀像が、かなりの重量で、

こちらを支えるのに苦肉の策だったことが推測できます。

 

修復においては、重量のあるご本尊を安心してお祀り頂けることも必須になります。

 

 

 

それでは、修復にかかっていきます。

 

まずは、復元修理ということで、既存の下地を除去して木地に戻します。

接合部分はすべて解体します。

先にもお伝えしましたが、板類は全て1枚板でした。

通常は、下地を除去しやすくするため水に浸けるわけですが、

板類の反りを助長させることになるので、木が動きそうなパーツは水に浸けず、

サンドペーパーで研磨し下地を除去しました。

 

虫食い被害は、あるにはありましたが、最小範囲で済みました。

 

こちらは、木地修理後の画像。

 こちらが正式な重なりになります。

 

光背の光芒(針光)十数本 と 八葉を補作

蓮弁数枚、据え座の彫り5枚、最下部の小足の補作

 華盤と反花の後面の不足部分の補作   など、不足分は補い、

 

漆塗りや金箔押しが完成した後に、支障なく組立てらるよう

この木地修理の段階でその準備をしておきます。

 

 

 

 

 

木地修理が完了した後は、

塗師の手に渡り、胡粉や砥の粉、膠を材料とした下地を使い、

下地を塗っては研ぐ工程を繰り返し、

漆を塗りあがて、次に箔押師の手に渡り、金箔を押していきます。

 

 

今回、石川県のお客様ということで、補足説明させて頂くと、

 

金沢で生産された金箔を使用していまして、その金箔は大きく2つに分けれます。

一つは、縁付け(えんづけ)箔、もう一つが断切り(たちきり)箔

 

縁付け箔は、伝統的な工法で作られた金箔です。

ふるや紙という箔打ち紙(手漉き和紙)を用いて打ち延ばされた金箔。

落ち着いた光沢を持ち、高価になります。

 

かたや、断切り箔は、昭和40年代以降に作られるようになった金箔です。

グラシン紙を箔打ち紙として使用し、縁付け箔と比べて工程が簡略化、量産できる金箔。

光沢があり、縁付けに比べ安価になります。

 

さらにそれぞれ、金の含有率による等級があるわけですが、

弊社では、落ち着いた光沢を好みますので縁付け箔を使用しています。

 

 

ということで、

漆が塗りあがった台座と光背に金箔を押して仕上げるわけですが、

上から下まで金箔のみで仕上げると、

メリハリがないので、蓮台は青蓮華(彩色)の仕上げをご提案致しました。

 

 

岩緑青彩色に截金仕上げ。

これを見慣れると、やはりこの仕上げを勧めたくなります。

 

 

こちらは光背。

48本ある光芒(針光)ですが、取り付け方法は様々なんです。

 

最初に、作り慣れていない職人さん と申しましたが、

その辺は、台座の構造もそうですが、特にこういった光背の構造をみればよくわかります。

この光芒をどのように固定するか、

漆を塗ったり、金箔で仕上げたり、またメッキがされた鏡板が入っていたり、

なかなか難しいように思います。

今回のは、悩まれたんだろうなと、そのように感じさせる構造でした。

 

 

非常に重たい鋳造仏を安置しても、その重さに耐えられるように修復させて頂きました。

彩色∔截金の蓮台が効いていますね。

 

この度はご縁を頂きありがとうございました。

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