日々雑録
仏具修理の話26『聖天厨子の修復』
5月に聖天厨子を納入させて頂きましたが、
それと並行して、別の聖天厨子の修復をご依頼頂いておりました。
こちらが、修復させて頂いた聖天厨子。
戸丈は4寸8分。 小さなお厨子です。
扉部分は円柱型ですが、
屋根と台座は八角。
各段は、接着が切れていて、
指で押さえていないと、扉を開けると倒れてしまう。。そんな状態でした。
ただ、幸いなことに、殆どのパーツが残されていました。
私の見解では、最下部の地擦りが1枚、おそらくあったはずで、
その地擦りが亡失しているくらい。
漆の剥落が著しく、下地の胡粉が露わになっています。
白く見えるのが、その胡粉の下地です。
胡粉の下地は、膠と胡粉を水で溶いたものなので水性。
なので除去することが可能です。
ということで、木地に戻しました。
八角に組んである厚めの材は、水に浸けて下地を浮かせて除去していきますが、
薄い板は、水に浸けるとその後、反りが出て支障が出るので、
水には浸けず、サンドペーパーで研磨。
日頃、仏像やその台座・光背の修復作業をしているので、
彫刻が埋まることに異常に反応してしまいます。
今回の彫刻は、比較的浅いので、
例え、塗りや金箔がきれいになっても、
木地の状態に戻さないと彫刻が埋まり、厚ぼったい仕上がりになってしまいます。
意外とその不細工な塗り膨れは、スルーされることも多くって、
綺麗になったことで、ごまかされていることが多いです。
漆を塗り上げ、最終組み上げることを考えて、
どこの部位を固めておくか、離しておくか、
離しておくならば、どう留めるか(ダボ等を嵌入しておくか)等
木地師と相談しながら、木地修理は進めていきます。
彫刻の欠損箇所と地擦りは補作。
修理の対象箇所は、当初の想定より増えてきます。
そのなかで、屋根上の宝珠に関して、
屋根に対して大きめの宝珠に取り換え(弊社に作り置きがあるので)を
ご提案いたしました。
検討された結果
製作当時のオリジナルを優先されることになりました。
弊社の宝珠は、ろくろで成形したもの。
かたやオリジナルは、手で削り出されたもの。
そういった、製作当初のオリジナルを尊重するという姿勢は、
文化財関係は徹底されます。
昔の技法に基づくことで、その工法、技術も受け継がれ、
オリジナルを残すことで資料的にも後世に残すことが出来ます。
かたや、視覚的のバランスや
今回は関係ありませんが、使い勝手、耐久性などから
今回のようなご提案をさせて頂くのは、我々の仕事では必要なことだと思います。
どちらを優先するかはお客様次第。
どちらも間違いではないと思います。
そして、漆を塗り上げ、
一旦、借り組みをします。
この仮組みが
完成前の最終確認で大事な工程になります。
下地や漆の分が増えることで、
例えば、扉の開閉が窮屈になってしまったり、
バラバラの状態で工程を進めているので、漆の塗りが足りなかったり、
仮組みすることで、それらが分かるわけです。
扉の外側は蝋色で鏡面に仕上げ、
よりきれいに金箔を仕上げるために、内側は摺り上げを行い、
この後は、金箔押しの工程に移り、錺金具の取付け及び、組み立てをして完成になります。
錺金具も他生の修理は必要でしたが、
不足分もなく、既存品の修理で事なきを得ました。
そして修復後がこちらです。
オリジナルを意識して、元通りとなる塗分けです。
ただ、後部は金箔を端折ることはしませんでした。
聖天さんのお厨子。
修理も過去にさせて頂きました。
前回も独特の形状でした。
聖天厨子はオリジナリティがそれぞれにあって面白いです。
ただ、円柱型の胴・扉だけは徹底されているのも興味深いです。
ご縁を頂戴しまして有難うございました。