日々雑録
ブツネタ477「七宝瓔珞の下がる至極の台座御光」
前回は、第1章ということで、
このお仕事の経緯と、ご本尊の阿弥陀如来像の仕上がりまでをご紹介させて頂きました。
今回は、台座と光背を中心にお話させて頂きます。
第2章 -四方造りで七宝瓔珞の下がる台座-
前回にも触れましたが、
8年前に阿弥陀像と光背は正式に彫刻までを仕上げ、その後の仕上げを待機していた訳ですが、
台座に関しては、仮の台座でしたので、今回新しくさせて頂きました。
光芒付きの舟型光背という、御本山の形を踏襲したいという施主様のご要望で
材質や彫りの内容は違えど、グレードの高い宝相華唐草の透かし彫りを製作させて頂きました。
この光背と1組になる台座は、いわゆる御本山型の台座。
御本山型でも多少の違いがあり、段数の「多い」「少ない」で分けると、段数の「多い」ほうです。
こちらが台座の彫り上がりです。
豪華な台座と光背ですが、これはまだ序章にすぎません。
今回特筆すべき仕様が、複数あるのでそれぞれご紹介したいと思います。
「正八角の四方造り」
台座は、六角、八角という形状のものが多いのですが、
比較的、真後ろの面は彫刻が省かれることが多く、
真後ろの面の両側の2面においても彫刻を簡略化する傾向にあります。
今回の台座は、八面全てに本格的な彫刻を施しています。
四方造りの台座は、修理では何回か直面したことがあり、
後ろ側の見えないところも手を抜かない姿勢に惚れ、いつしか作ってみたいと思うようになりました。
修理で思いましたが、これって非常に手間がいるんです。
これだけ段数が多いと、彫刻の手間も大分変わりますし、
塗り、金箔押しの工程でも地味ですが、仕事の量は増えてきます。
施主様には、このご提案を受け入れて頂きました。
「蓮弁に三弁宝珠の盛上げ」
葺蓮華(蓮台)は、5段×9枚の45枚の蓮弁が付きます。
これら1枚1枚に三弁宝珠の盛り上げをし、岩彩色と截金で仕上げます。
これも思っていたより手間が掛かります。
一般的な蓮台は、蓮弁を木地の段階で取り付けてしまうことも多いのですが、
今回のような仕様ですと、蓮弁1枚1枚にダボを付けます。
そして、塗師に渡り、それぞれ白地で補整し、蓮肉の蕊には漆を塗ります。
次に蓮弁に盛上げをするのに、
彩色師と打ち合わせを行います。 蓮弁に対してどれくらいの大きさにするのか・・。
下の画像で言えば、左の小さな図になるのですが、
小さくなりすぎても絵がつぶれてしまっては本末転倒ですし、
職人に任せるところと、綿密に打ち合わせをするところと夫々あります。
このあと、宝珠の絵は違うデザインに変更になりましたが、
ようやく、蓮弁に鉛丹で盛上げを施します。
施主様のご意向で、宝珠はそれぞれが火焔をまとう図に変更しました。
その後は、この蓮弁たちを塗師に戻し、盛り上げ部分に漆を塗り、
さらに、箔押師に渡り、金箔を押します。
そして、再度彩色師に戻り、青蓮華の彩色。
話がそれますが、白色の蓮華は白(びゃく)蓮華といいますが、緑色の蓮華は青蓮華といいます。
青信号、青りんご、青汁なんかもそうですが、緑やのに青ってのが巷では多いですね
話を戻します。
三弁宝珠を黒で括ったあと、
岩緑青で彩色し、蓮弁の先は青で暈かします。
この段階では、まだしっくりしませんが、金線が入れば大きく変わります。
彩色完了後は、截金師に渡り、
截金を施すと、この通り、かなりかっこよく締まります。
截金が素敵ですね。
補足しますと、この宝珠があるのと、ないのとでは、截金師さんの仕事量が実は大きく変わります。
宝珠がなければ、1本の金箔を蓮弁の根元から先にかけて置けるわけですが、
宝珠があると、宝珠を避けての作業になり、宝珠のところで金箔を切って、また新たに短い金箔を置くことになります。
それが45枚あるわけですから。
あと、截金の金箔の艶はもちろんですが、宝珠の金箔の艶も効いています。
小さな範囲ですが、漆を塗ることによって金箔が生き生きした強さが生まれます。
そして、最終の取り付けです。
木地の段階に比べて、下地と彩色の分が膨れているので、その辺も考えておかないといけません。
多少、穴を削ったり調整が必要になります。
1枚1枚取り付けていくのは、黒ひげみたいで癖になりますが、
傷つけてはこれまでの携わった職人さんに合わす顔がありませんので慎重に行います。
ということで、この蓮華だけでも、かなりのドラマがございました。
「蓮台に七宝入りの瓔珞下がり」
さて、今回圧倒的な存在感になった瓔珞についてご紹介します。
こちらも施主さまの強いご意向でした。
私自身も興味があり、実際現物を拝見したこともありましたが
実際製作する機会はなく、今回ドキドキしながらも仕上がりを楽しみにしておりました。
とはいうものの、
今まで拝見した例は、身丈1尺6寸以上でどれも大きな像ばかり。
今回は1尺に満たない小振りのお像ですので、台座とのバランスを懸念しておりました。
阿弥陀さんは先に塗りに進め、
台座の彫り上がりと、阿弥陀さんの塗り上がりを待ち、光背は塗りにまわさず待機。
そう、
全体のバランス、瓔珞の竿の角度、竿をどこに固定するか 等
全てが揃わないとわかりません。
当初は、竿は5本のほうが良いのでは・・ なんて思ったこともありましたが、
施主様が七宝入りをご希望されていることと、
台座が、四方造りなので後ろから見ても瓔珞が見えるほうが格好が良いということ
を考慮し、改良を加え、
何とか7本の瓔珞を下げれる見通しがつきました。
というのも、光背があって竿を通すのが非常に難しかったんです。
試行錯誤した鉛筆跡が物語っています。
これで七宝が可能だ! と歓喜に沸いたとさ。
おしまい。
いや、まだまだこれからです。
今度は七宝です。
『無量寿経』での七宝
金、銀、瑠璃、玻璃、蝦蛄(シャコ貝)、珊瑚、瑪瑙 を
金は琥珀、玻璃は水晶、銀は92.5%のものでご用意しました。
直径は4mm。 多少のサイズのばらつきはありますが、何とか用意できました。
銀はこのあと銀メッキをしました。
これらの玉は火焔宝珠となります。
[下写真右上]の火焔の中央部に玉を入れるのですが、
仕入れた石の穴では小さすぎて刺さらず、穴を空けようと試みましたが出来ず、
山梨県の職人さんに穴を広げてもらうように依頼。
そして瓔珞自体は、すべて銅地で、手仕事になります。
プレスや電気鋳造品は使用しません。
瓔珞の枠や火焔は三枠(三ツ矢サイダーのマークみたいな)になり、
宝珠下の蓮華は2段葺き、
瓔珞は3段下がりになります。
そしてこちらはメッキ後。
七宝は宝珠に取り付けが完了です。
あと、繋ぎに入れる玉もいろいろ考えた結果、
2mmの極小の水晶と瑪瑙の玉を入手しました。
今回、この玉を使ったのは正解でした。3㎜になるとかなり大きく感じます。
やはり全体のバランスが肝心だと思いました。
また、比較的、胸飾りなどの瓔珞をつなぐ玉は、プラスチックビーズが使われていることが多いように感じますが、
過去にベトナムの方から、胸飾りの製作を依頼されたとき、事例を見せた際に、
なぜ石を使用しないの? と聞かれたことがありまして、それはごもっともだと思ったのを覚えております。
話を戻します。
このあとは、メッキをした極細の真鍮線で、夜な夜な繋ぐ作業です。
これは、比較的リスクのない作業なので、ただ仕上がっていくのが楽しいです。
・・ということで、こだわりの要所を3つに分けてご紹介しました。
さて、完成までもうすぐです。
こちらは、光背の漆塗り上がり。
いかついですね~。(いかついは最大の誉め言葉です)
光背の透かし彫りは、見せ場の一つなので、
塗り膨れないように、漆を塗り重ねる手法で塗り上げました。
こちらは台座の塗り上がりです。
このあとは、金箔押しまして、
台座に金具を打ち、組み上げていくわけですが、
ご本尊同様、台座にも納入品を納めました。
では、完成写真です。
まずは、四方造りがわかる後面から。
次に、蓮華と瓔珞がわかる写真です。
いかつい光背の写真。
そして全体の写真です。
ちなみに瓔珞がないとこうなります。
こちらだけでも豪華なはずですが、瓔珞の存在は大きいですね。
最後に
このようなやりがいのあるお仕事をご依頼頂きまして誠にありがとうございました。
忘れられないお仕事になりました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。