日々雑録
ブツネタ451「彩色不動明王座像★完成」
5月に ★彫りあがりました☆72 でご紹介した不動明王座像。
その後、下地、漆塗り、金箔押し、彩色の工程を経て完成に至り、
先だって無事に納入をさせて頂きました。
今回は、彫刻完成後から完成に至るまでをご紹介したいと思います。
こちらが彫りあがり時の画像です。
さて、今回のお不動さんは、日蓮宗寺院の本堂に祀られます。
須弥壇上には、三寶尊、四菩薩、四天王、日蓮聖人が祀られていて、
今回新たに不動明王が加わります。
将来的に、愛染明王像も考えてておられるので、お像は座像とし、
安置する場所は、須弥壇の高欄の後ろ側となり隠れてしまうため、
岩座丈を上限いっぱいまで高くして製作することにしました。
では、彫り上がり以降の工程をご紹介します。
彫りあがった不動さんは、まず塗師の手に渡ります。
最初に、接合部を薬研に彫りこんで、漆と木粉を混ぜたコクソを充填します。
その上から、糊漆で和紙を張ります。
そのあと、生漆を全体的に摺りこんでいきます。
この作業を木地堅めといいます。
ここまで、漆が要所に登場しますが、
コクソと和紙張りに関しては、接着材として。
木地堅めは木の補強として使用しています。
これらの工程は仕上がってしまえば、それが施されたのか分からない工程です。
では、なぜこの工程を行うのか。
樹脂や金属と違って、木は乾燥や湿気で、痩せたり膨張を繰り返しますので、
その結果、接合部がわずかですが開いたり、ずれたりすることがあります。
木の上から下地の層を盛っているわけですから、
下地に亀裂が生じたり、将来的に欠落することが大いに有り得ます。
そういった対策のために、
コクソや紙張り、木地堅めという工程を施すわけです。
また、画像はありませんが、像の底には布(寒冷紗)を張っています。
和紙よりも強度は上がります。
ただ、これで100%大丈夫なわけではありませんが、
あくまで最善を尽くすという工程になります。
さて、その後の工程ですが、今回は極彩色で仕上げるため、
胡粉と膠による白地で仕上げます。
こちらは、白地を塗って研ぎあがった状態です。
膠と胡粉による下地 とわざわざ明記しましたが、それには訳がありまして、
この下地は昔ながらの伝統的な工法で、
後世の修復において、下地を除去することが可能です。
100年後、200年後の仏像やその台座の修復を、頻繁にさせて頂いておりますが
その多くはこの膠による下地がされているので、きれいに修復することが可能です。
膠というのは、動物の骨や皮から抽出した物質で、
これに胡粉と水を混ぜて下地を作りますが、
その作り方や配分などは経験が必要です。
ただ、近年ではそういった手間が不要で、安価な人工的な材料が存在します。
後の工程も支障なく仕上げることが出来るそうで、そういった下地を使われる業者が増えているようです。
ただ、この下地は除去することが困難で
私としては、後世の修復においてリスクとしか考えられないので、選択肢に入りません。
仏像や木彫刻にいおいては、膠下地が最良であると考えています。
話を戻しまして、
白地が完成した後は、部分的に漆を塗ります。
今回は、極彩色仕上げになりますが、
彩色と言っても、部分的に金箔を使用します。
白地の上から直接金箔を押す場合もありますが、
漆の塗膜の上に金箔を押すほうが、艶が出て箔が生きます。
像の大きさや形状によりますが、弊社の好み、拘りです。
そして、ようやく彩色の工程です。
彩色においては、内容は一任頂いたのですが、
1点だけご注文があって、このエメラルドグリーンの色を入れて欲しい と
ご寺さまからご希望がありました。
さすがに青不動を、エメグリ不動にするわけにいきませんので、
衣の一部にこのエメグリを使用することにしました。
エメグリ候補は3つ。
左は天然緑青。 中央と右は新岩緑青。
新岩とは人工的に作られた岩絵の具のことです。
人工でも岩絵の具は高価ですが、
天然になると目を剥く値になります。
でも、今回は特別に天然で☆
膠水で溶いて、
宝相華文様にエメグリを挿しました。
そして、いよいよ完成です。
完成度の高いお不動さんが仕上がりました。
完成度を上げるためには、要所でポイントがあり、
やはり、彫りあがった状態から下地を仕上げるまでに、
いかにイメージを損なわないか が大事になってきます。
その中で、正直でまともな工法でやり続けることは自信にも繋がります。
良きご縁に感謝。