日々雑録
仏像修理の話81『弘法大師像の復元修理③』
前回からの続き。
前回は、木地修理完了までをご紹介しました。
水に浸し、下地を除去し、解体する作業を経て、
木地修理、接合の工程が完了すれば、
彩色は複雑な模様等がないので、修理工程の3分の2が完了した感じです。
次の工程は塗師の手に渡ります。
彩色で仕上げる前のとても大事な工程になります。
ただ単に、彩色をする前の白地(胡粉地)を塗るというものではなく、
彩色で仕上げるにあたり、よりきれいに仕上がるよう、そして、
後世において、亀裂や剥落が起こりにくくするように手を尽します。
解体した際に、これだけのパーツに分かれました。
中には細かな木片もあります。
こういった木片があるということは、虫食い、摩損、欠損、そういった損傷部に埋め木したり、補作したり、
過去に復元修理が行われたという証になります。
今回の弘法大師像に関わらず、小さな仏像出ない限り、
複数の部材から構成されています。
材質は木です。今回は桧でしたが、材質はともかく木製の場合、
乾燥や湿気により、木が伸縮し、木が呼吸することで、
接合部分から亀裂が生じたり、
さらにはそこから下地の剥落につながったりします。
以下数枚の画像は、それらを防ぐための工程になります。
接合部へ、漆と木粉を混ぜたコクソを充填し、
さらには、その部分に和紙を張り補強をし、
木地堅めと言いますが、木地部分に生漆を摺りこみます。
底部分には、寒冷紗を張り、漆でかためます。
和紙よりも強度があります。
こういった下地前の補強が、非常に大切になってきます。
その後に、胡粉地(胡粉+膠)を塗り、
塗っては研ぐ工程を繰り返します。
木の表面は刃物跡や損傷による多少の段差等もあります。
それらを下地でなだらかに仕上げていきます。
そして、下地の完成がこちらの画像になります。
特筆すべき点がありまして、
このあとすぐに彩色師の手に渡るわけではありません。
塗師さんからお像を受け取って、
私共で必ずやるべきことがあります。
こちらは下地完了時のお顔の拡大画像。
このままでは、彩色師に依頼できません。
木地修理の段階と比較してみると、それが良くわかります。
おわかりになられましたか?
それは目の大きさです。
塗師さんがしたじを塗られることにより、
まぶたがどうしても埋まってしまいます。
ですので、下地が完了した段階で、まぶたの整形手術を行います。
我々は「眼(がん)出し」と言っています。
眼出しをしていない仏像は、目が埋まった感が否めません。
これは漆箔で仕上げる場合でも同じです。
眼出しが完了すれば、いよいよ最終工程の彩色師さんのもとへ。
弘法大師像の場合、持物の五鈷杵がありますので漆箔で仕上げ、
さらには左手には数珠を持たせて、完成になります。
今回のお仕事は、とても立派なお像ですが、
一般在家様がお祀りされている弘法さまでした。
後世に残るお仕事をご拝命頂けたことに感謝いたします。
仏像修理の話79『弘法大師像の復元修理①』
仏像修理の話80『弘法大師像の復元修理②』