日々雑録
仏具修理の話21『聖天厨子の修復』
今回の仏具修理は、聖天厨子です。
「聖天」という2文字が付くだけで、いつもより気が張ります。。
聖天さんは仏教の天部にあたり、歓喜天とも呼ばれます。
体は人、頭部が象(象頭人身)で2躯が抱き合っている、という特異な姿は、
本やネットで見ることはあっても、実際拝見することはまずありません。
なぜなら、聖天さんは、必ずといっていいほど秘仏として祀られるからです。
また数多くの仏像が厨子に祀られますが、
阿弥陀像を祀る厨子を阿弥陀厨子、観音像を祀る厨子を観音厨子、
とは呼ぶことはありませんが、
この聖天さんに限り、
「聖天厨子」と固有の名称で呼んでおります。
それだけ、この「聖天厨子」は特別な厨子であることがわかります。
弊社も、比較的、聖天厨子の製作は多いほうで、
製作事例①
製作事例②
他にも事例はあるのですが、
概ねこのような形状の聖天厨子のご縁を頂きました。。
またこちらの画像は、弊社製作のものではありませんが、
シンプルながら荷葉の彫刻が素晴らしく、また輪宝の打掛けがユニークで、
是非参考にしてみたいと思い、画像を保存しておいた聖天厨子です。
この分も含めて、
蕨手付きの屋根、屋根上に宝珠が付く、丸型である、扉には錠が付く、荷葉(蓮の葉)型の台座、
などが共通する特徴でしょうか。。
前置きが長くなりましたが、今回修理させて頂いた聖天厨子はこちら。
これまで見てきたものと比べると非常にシンプル。
色んな拘りを削ぎ落とした仕様とでも言いますか、
それでも、きれいに修復すれば素敵な厨子に生まれ変わります。
まずは、木地修理から。
損傷具合は、
胴部背面に割損があり、何かの拍子で屋根が崩れ落ちそうな状態。
礼盤(下台)に数か所の欠損がありました。ネズミによる被害にも見えます。
シンプルな形状ではありますが、礼盤には三弁宝珠と
聖天さんならではの大根の彫刻が4つ施されていました。
これがあるだけで、十分聖天用というのがわかります。
あと、片方の扉が下の画像のように歪みが生じていて
大きな隙間が出来てたので、再利用は不可。 扉1枚は取り替えました。
他に、厨子床板と、地覆を取替え、天井を補作。
屋根の宝珠は新しく新誂。
礼盤の欠損個所に埋め木をし、木地修理は完了です。
そうそう、
あと、2点のダボを設置。
もとは台に厨子を置いているだけだったので、これでしっかりと固定。
その後、塗師の手の渡り、
下の写真は漆塗上がり後のもの。蝋色下です。
もとは、厨子が朱、台が黒と溜色でしたが、朱は溜に統一。
塗上がり後は蝋色師へ。
外部は総蝋色。
厨子内部は摺り上げの上、金箔押し。
台の彫刻には、純金鈖を蒔き、
最後に金具を取付けて完成に至りました。
アールがあると光を拾いやすくて、蝋色のし甲斐があります。
あと、よく見るとわかりますが、丸屋根が、若干歪んで見えます。
今ですと、
弊社の木地師ですといわゆる挽きもの、轆轤(ろくろ)によって成形しますが、
昔は、轆轤がなかったので、
手で削りながら仕事をされていたのがわかります。
(まあ、手でももっときれいに成形される職人さんもいたでしょうが。。)
今回は、聖天厨子の修理のお話でした。