日々雑録
ブツネタ497「間違いなく"最上"の幢幡」
今回は、内仏用の幢幡の製作のお話です。
かなり、難度も完成度も高いお仕事となりました。
今回の幢幡の総丈1尺。
寺院用が6尺とすると、1/6のサイズです。
解体すると、半対でも
これだけのパーツに分かれます。
小さくても、寺院用の幢幡と構造は変わらず。
ちなみに、寺院用の幢幡はこちら。
これだけ小さくなると、
上幡は、蕨手に彫刻を入れ、
地透き部分には六字名号と彫刻が付き、
中幡、下幡も、ハードルの高い加飾を考えています。
仕上がりまで、難題だらけのお仕事になります。
では、木地から説明をしていきますが、
今回、漆の塗り下にはなりますが、材は楓(かえで)を使用しました。
内仏用の小さな仏具になるため、下地による塗り膨れを懸念し、
当初、下地無し、漆の塗り重ねの工法を見据え、
カドが立ちやすい堅い木である楓を選択しました。
下地無しと言いましたが、下地をしないということは、
木地の"粗"を隠すことが出来ないということになります。
木地の"粗"が隠せないということは、逆に木地に"粗"がない仕上がりでないといけません。
いわゆる木地仕上げ。木地でも十分に魅せられる仕上げでないとこの選択は出来ません。
そして、木地仕上げの表面の美しさだけでなく、
接合部には「やといざね」を入れて、接合の補強をしています。
双方に溝を彫って、サネと呼ばれる材を挟み込んで接合する訳ですが、
これをすることで、何倍も接着力が増します。
固定の方法として、それぞれボルトが通るようにし、
ナットで各所固定。
束(つか)は6本、ホゾ付きで固定し、溝を作り、連子枠を固定。
葵もダボ2点で固定。
蕨手の取り付けも、接着剤で固定するのではなく、
矢印の部分。予め穴を空けておいて、
最終の取り付けの際は、蕨手にも穴を空けて、鋲で固定。
表面の仕上げも、構造的な強度も、取付け方法においても
完璧な幢幡木地 が出来ました。
次に、彫刻の工程に移りましょう。
まず、こちらは蕨手の12本に彫りを入れました。
今回の幢幡は、全体を消粉(金粉)で仕上げます。
蕨手にも消粉を蒔いた上で、彩色で仕上げます。
次に、今回最も悩んだのが、上幡の地透き箇所。
今回は西山浄土宗なので「南無阿弥陀仏」の六字を表現します。
初めは、木で作れないかと思案するも、字が小さすぎて断念。
どうしても、文字の凹凸を表現したかったので
エッチングで浮かせ文字の銘板を作ることにしました。
銅板で浮かせ文字で銘板を作りました。※※
銅板に漆を焼き付け、
さらに金粉を蒔いて、幢幡に固定します。
ただ、銘板を嵌め込むと、銘板の際(きわ)が露わになってしまうので、
銘板の際(きわ)を隠すこちらの彫刻を作りました。
この彫りは、際を隠すだけでなく、装飾としても良いアクセントとなります。
あと、下幡底に付く蓮の彫りが2つ。
彫刻は以上。 さてどう仕上がるでしょうか。
次に、塗りの工程です。
完璧な木地への漆塗りですが、
シャープなラインが丸くなったり、表面が汚くなると
完璧な木地が、二流の木地になってしまいますが、
塗師屋さんも気を張って、綺麗に塗り上げてくれました。
ただ、折角きれいに塗ってもらいましたが、
銘板と彫刻を取り付けると、
若干ですが、彫刻が枠からはみ出たので、研磨し木地に戻しました。
結構、手間な作業ですが、塗り上がり後のこういった確認が重要だったりします。
漆が塗りあがったら、箔押師に渡り、消粉(金粉)を蒔きます。
金が高騰している中、金箔ではなく消粉となると余計に気を遣います。
さて、寺院仏具の幢幡の場合、
中幡や下幡には、盛り上げを入れて装飾をしますが、
今回のように小さな幢幡になると、盛り上げは向きません。
ということで、今回は、
消粉+截金で仕上げました。⇒ブツネタ470
消粉+截金は、この上ない仕上げになります。
過去に仏像でもこの技法を選択しました。
光の当たり具合で、見え隠れするのですが、
画像ではその良さが伝わりにくいですが、
仏壇内にこちらの装飾は、なんとも厳かに演出してくれます。
彫刻の彩色も品よく仕上がりました。
それぞれのパーツが、仕上がりました。
まださらに、要所に錺金具を取り付けます。
こちらはメッキ前の銅地の状態です。このあとメッキを仕上げて、
金具打ちと組立ての工程を行っていきます。
てなことで、無事に組立てが完了。
並行して、瓔珞もつないで完成です。
内仏用の幢幡としてはもちろんですが、
仏具としても最上のお仕事でしょう。仏縁に感謝。
※※インスタで投稿した際に、銘板の文字「無」の真中の横線が長いのは誤りとご指摘いただきました。
次回の製作の際は修正したいと思います。ご指摘いただきありがとうございました。
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