日々雑録

ブツネタ476「ヌグイ截金の阿弥陀さま」

2022/01/09(日) ブツネタ

 

まる1年掛けて、昨年末に無事納入が完了したお仕事を、令和4年最初の日々雑録でご紹介します。

 

 

なんせ盛り沢山で。どこからお話したらよいのか。。

まずは、こちらをご覧いただけると話が早いかと。

合掌★手を合わそ⑰「また逢う日まで」

 

 

今から約8年前の投稿です。

少なくても1つか2つ、自分なりのこだわりを入れて仕事をすることで、どの仕事も思い出があります。

 

 

今回のお仕事は、施主様の思いも強く、より鮮明に記憶に残っておりました。

まだ先の話かと思っておりましたが、8年ぶりの再会。

昨年令和3年1月17日にお預かりさせて頂きました。

お木仏は、お身丈9寸の阿弥陀如来立像。

本願寺派(お西)の造形。

漆箔仕上げ用で、寄木造り、玉眼。 像内は内刳りを施し、像内には納入品も収めました。

そして、特筆すべきなのが光背。

舟型の光芒付き、宝相華透かし彫り。 光芒以外は一木の彫り出しです。

この時、台座は仮で製作しました。

 

8年前のお話を第一期(前編)とするならば、

今回のお話は第二期(後編)となります。

 

第二期では、

彫りあがったご本尊及び、光背の塗り工程以降の加飾と、正式な台座の新誂。

全てを仕上げて完成。 お話の完結となります。

 お話は長くなりますので、2回に分けて投稿いたします。

 

 

第1章 -阿弥陀さんを総ヌグイ截金仕上げ-

 

阿弥陀如来像をはじめとする如来像の仕上げは、

木地仕上げ以外では、金箔で仕上げることが殆どで、

衣は金箔、肌の部分はヌグイ(金箔を押してから金粉を蒔く)のが一般的です。

 

で、今回は、

"総ヌグイの上からの截金"

 

弊社は、截金を積極的に多用していますが、

白檀や桧などの木地の上から、もしくは、彩色を施した上からの截金のどちらかです。

 

金箔(金粉)の上からの截金というのは、

截金を金の上に置くと、同系の色のために光の当たり具合ではわからなく仕事がしづらい、

截金の接着で使用する膠やフノリが金箔に付くと、金箔が変色することであったり、

また、後で触れますが、今回のような割袖の構造になると工程上で非常にややこしかったり、

通常よりも何倍も仕事が難しくなります。

 

とはいえ、昔の仏像や厨子の扉では、"金の上からの截金"は数多く見てきました。

今回、そのようなワクワクするようなご依頼を頂けたことは、仏具屋冥利に尽きます。

 

 

それでは、截金までの工程をご紹介します。

 

まず、塗師の工程です。

漆を塗る塗師ですが、漆を塗るまでの下地に概ねの時間を費やします。

 

この写真は、接合部や構造的に塗りあがった後に筋が写らないように、

刻苧(こくそ)彫り、刻苧を充填し、和紙を貼ったところです。

 

 

こちらは、膠と胡粉による下地を塗っているところ。

胡粉に墨を混ぜているので、鼠色になっています。

 

 

こちらの黄土色は砥の粉地。

砥の粉地のヘラ付け風景です。

粒子の粗さを変えて付けては研ぐ工程を繰り返します。

 

 

形状に合わせて砥石を使い分けます。

彫りあがった状態から、下地で雰囲気を出来る限り変えないように、

お顔の輪郭、目のまわり、三道、衣のひだ 等の要所を気を付けて埋まらぬよう

仏像専門の塗師が注意を払い下地を仕上げます。

 

 

そして、ようやく漆を塗ります。

漆の扱いは難しく、気温や湿度によって仕上がりを左右されます。

 

 こちら漆の塗上がりですが、

一部漆がのっていないところがあります。

 

そう、右肩の部分です。

右手は上げ手になり、袖内部が奥まで空間があります。

この部分というのは、接合したままですと

奥まできれいに漆が塗れませんし、金箔も押せませんので、

仏像彫刻の際に、このラインで刃物を入れて割ってしまうので

このような造りを "割り袖" と呼んでいます。

 

このあとは、一旦塗師から引き上げて、箔押師に渡り、袖内部に金箔を押す。

 

この一連の流れは、これまでブログでも何度もご紹介してきました。

 

が、

ここからが

いつもと違うところです。

 

"総ヌグイの截金仕上げ "

ヌグイということで、金箔を押したあとに、金粉を蒔きました。

そして、このあと截金師に渡ります。

 

 

截金も 塗りや箔押と同様に、袖内部への施工は、接合した状態では不可能です。

あと、やはりこのヌグイ。

金箔でもそうですが、金粉になると余計に気を遣います。

擦れてしまったり、変色してしまったり、

仮にそんなことがあったとしても部分的に直すとアラになり、再度やり直しです。

ということで、先に申しました通り

工程が増えるという回数だけの話ではなく、扱いが非常にリスクを負うことになるのです。

 

こちらが袖内部の截金完成時です。

光の加減で、わかりにくいかもしれませんが、

胴体の方にはかなり詰めて入っています。

 

ということで、

肩を接着し、再度塗師に戻ります。

接合面の筋を下地で補整し、部分的に漆を塗ります。

このあと、金箔、粉蒔き、そして截金。

理屈で考えれば、製作は可能なんでしょうが、

初めて挑戦する仕事は、毎回ハラハラドキドキ。今回は特にです。

 

漆で金箔を押し、

漆の乾燥を待ち、

さらに金箔の上から漆を摺り込みます。

 

先に仕上げたところを除き、

全体に漆を摺り込み、きれいに拭き取った後、金粉を蒔きます。

 

 

そしてようやく総ヌグイ(全身をヌグイ仕上げ)が完了。

 

比較的スムーズにはいったほうかとは思いますが、

それでも、やはり困難な壁は生じました。

ここには書きませんが、"ヌグイ截金" やはり難しいです。

 

そして、再度截金師さんに渡り、衣全体に截金を入れていき、

截金完成後に、彩色師が、髪、髭、唇 を描きます。

 

そして、最後の最後に

手の固定や、肉髻珠と白毫珠を取付けて、阿弥陀さま本躰が完成に至りました。

 

 

光の加減で、截金の見え方も違います。

素人の撮影なのでご容赦ください(汗)

現物をみるほうが素敵ですね。

写真ではどこまでこの荘厳さを伝えられるか。。

 

私も長らくこのお仕事に携わっておりますが、

今回のお仕事は、大きな経験となったのには間違いありません。

 

それでは、次回 第2章では、

台座と光背について書かせて頂きます。

 

 

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