日々雑録

ブツネタ451「彩色不動明王座像★完成」

2020/09/19(土) ブツネタ

 

 

5月に ★彫りあがりました☆72 でご紹介した不動明王座像。

 

その後、下地、漆塗り、金箔押し、彩色の工程を経て完成に至り、

先だって無事に納入をさせて頂きました。

 

今回は、彫刻完成後から完成に至るまでをご紹介したいと思います。

 

尾州桧材 寄木造り 玉眼

こちらが彫りあがり時の画像です。

 

 

さて、今回のお不動さんは、日蓮宗寺院の本堂に祀られます。

須弥壇上には、三寶尊、四菩薩、四天王、日蓮聖人が祀られていて、

今回新たに不動明王が加わります。

 

将来的に、愛染明王像も考えてておられるので、お像は座像とし、

安置する場所は、須弥壇の高欄の後ろ側となり隠れてしまうため、

岩座丈を上限いっぱいまで高くして製作することにしました。

 

 

では、彫り上がり以降の工程をご紹介します。

 

彫りあがった不動さんは、まず塗師の手に渡ります。

最初に、接合部を薬研に彫りこんで、漆と木粉を混ぜたコクソを充填します。

コクソは2通り。木工用ボンドと木粉を混ぜる場合と、今回のような漆で混ぜる場合とあります。


その上から、糊漆で和紙を張ります。





そのあと、生漆を全体的に摺りこんでいきます。

木地堅め

漆 木地堅め

この作業を木地堅めといいます。

ここまで、漆が要所に登場しますが、

コクソと和紙張りに関しては、接着材として。

木地堅めは木の補強として使用しています。

 

これらの工程は仕上がってしまえば、それが施されたのか分からない工程です。

では、なぜこの工程を行うのか。

 

樹脂や金属と違って、木は乾燥や湿気で、痩せたり膨張を繰り返しますので、

その結果、接合部がわずかですが開いたり、ずれたりすることがあります。

木の上から下地の層を盛っているわけですから、

下地に亀裂が生じたり、将来的に欠落することが大いに有り得ます。

 

そういった対策のために、

コクソや紙張り、木地堅めという工程を施すわけです。

 

また、画像はありませんが、像の底には布(寒冷紗)を張っています。

和紙よりも強度は上がります。

ただ、これで100%大丈夫なわけではありませんが、

あくまで最善を尽くすという工程になります。

 

 

さて、その後の工程ですが、今回は極彩色で仕上げるため、

胡粉と膠による白地で仕上げます。

こちらは、白地を塗って研ぎあがった状態です。

不動 白地 胡粉

不動 火焔 白地

膠と胡粉による下地 とわざわざ明記しましたが、それには訳がありまして、

この下地は昔ながらの伝統的な工法で、

後世の修復において、下地を除去することが可能です。

100年後、200年後の仏像やその台座の修復を、頻繁にさせて頂いておりますが

その多くはこの膠による下地がされているので、きれいに修復することが可能です。

 

膠というのは、動物の骨や皮から抽出した物質で、

これに胡粉と水を混ぜて下地を作りますが、

その作り方や配分などは経験が必要です。

 

ただ、近年ではそういった手間が不要で、安価な人工的な材料が存在します。

後の工程も支障なく仕上げることが出来るそうで、そういった下地を使われる業者が増えているようです。

ただ、この下地は除去することが困難で

私としては、後世の修復においてリスクとしか考えられないので、選択肢に入りません。

仏像や木彫刻にいおいては、膠下地が最良であると考えています。

 

 

話を戻しまして、

白地が完成した後は、部分的に漆を塗ります。

今回は、極彩色仕上げになりますが、

彩色と言っても、部分的に金箔を使用します。

白地の上から直接金箔を押す場合もありますが、

漆の塗膜の上に金箔を押すほうが、艶が出て箔が生きます。

像の大きさや形状によりますが、弊社の好み、拘りです。

不動 金箔

 

そして、ようやく彩色の工程です。

彩色においては、内容は一任頂いたのですが、

1点だけご注文があって、このエメラルドグリーンの色を入れて欲しい と

ご寺さまからご希望がありました。


さすがに青不動を、エメグリ不動にするわけにいきませんので、

衣の一部にこのエメグリを使用することにしました。

 

エメグリ候補は3つ。

左は天然緑青。 中央と右は新岩緑青。

新岩とは人工的に作られた岩絵の具のことです。

岩絵の具

人工でも岩絵の具は高価ですが、

天然になると目を剥く値になります。

でも、今回は特別に天然で☆

 

膠水で溶いて、

宝相華文様にエメグリを挿しました。

彩色

 

 

そして、いよいよ完成です。

不動明王 青不動

不動 明王 座像

完成度の高いお不動さんが仕上がりました。

完成度を上げるためには、要所でポイントがあり、

やはり、彫りあがった状態から下地を仕上げるまでに、

いかにイメージを損なわないか が大事になってきます。

 

その中で、正直でまともな工法でやり続けることは自信にも繋がります。

良きご縁に感謝。

 

 

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